Kentaro Kuribayashi's blog

Software Engineering, Management, Books, and Daily Journal.

個人的「2012年の本ベスト5」を選んでみた

さて、ベスト5を選定しようかと思うも、昨年の半ばにKindleを購入し、また、今年は転居を控えて書籍をあまり購入・読了できなかったので、あんまりないかなーと思うも、まあそれなりに読んでいないわけではないのだし、中には大変感銘を覚えたものもあったので、予定通りざっくりとベスト5を挙げてみたいと思います(booklogで書いたベスト3)。

1 渡邊幹雄『リチャード・ローティ - ポストモダンの魔術師』

リチャード・ローティ=ポストモダンの魔術師 (講談社学術文庫)

リチャード・ローティ=ポストモダンの魔術師 (講談社学術文庫)

この本の原著は1999年に刊行されたものなのですが、今年になってようやく講談社学術文庫より文庫化され、僕自身それで読んだので、ランキング入り。というか、1位。

リチャード・ローティは、2007年に物故したアメリカの思想家です。彼の『偶然性・アイロニー・連帯』を初めて読んだ時の衝撃は忘れられません。自分があれこれと考えをめぐらせていたり、思い悩んでいたりしたこと全てに対して、より優れた回答がそこには書かれていたのでした。昨年は、サンデル教授の本が流行ったりしましたが、ローティこそもっと読まれてほしいと切に願います。

その勢いで、刊行されているのは知っていたものの放置していた2冊のローティに関する研究書も、同時期に読んだのでした。

偶然性・アイロニー・連帯―リベラル・ユートピアの可能性

偶然性・アイロニー・連帯―リベラル・ユートピアの可能性

リチャード・ローティ―1931-2007 リベラル・アイロニストの思想

リチャード・ローティ―1931-2007 リベラル・アイロニストの思想

連帯の挨拶―ローティと希望の思想

連帯の挨拶―ローティと希望の思想

2 エットレ・ソットサス『夜ノ書』

夜ノ書 エットレ・ソットサス自伝

夜ノ書 エットレ・ソットサス自伝

モダン・デザインに興味のある方にはお馴染の、戦後イタリアのプロダクトデザインを率いた巨匠、エットレ・ソットサスの自伝。この本は、いつものように書店をぶらぶらしている時に見つけて、明らかに面白いに違いないオーラを放っているのを即座に購入したのですが、その直感は完全に当たり、比類のない自伝文学を楽しむことができたのでした。

デザイナの自伝であるにも関わらず、有名な戦後の活躍ぶりはほとんど語られることなく、著者の青春時代である戦前・戦中の経験を語る文章がほとんど。異言語と、ソットサスを囲んだ様々な女たち。砲弾の飛び交う戦場、それなのに奇妙にあっけらかんとした著者の文体は、本当に美しい。ヨーロッパの知性というものの底知れない凄さをあらためて見せつけられた一冊。

ソットサスの業績を知らない向きには、以下の書籍が役に立つでしょう。

エットーレ・ソットサス (デザイン・ヒーローズ)

エットーレ・ソットサス (デザイン・ヒーローズ)

巨匠エットレ・ソットサス (20世紀の巨匠たち)

巨匠エットレ・ソットサス (20世紀の巨匠たち)

3 エリック・リース『リーン・スタートアップ』

リーン・スタートアップ  ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす

リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす

ビジネス書のようなものをこういうランキングに挙げるのは、個人的な趣味からいってあまり好きではないのですが、今年はしかたがないでしょう。仕事のしかた、考え方に大きな影響をおよぼされています。そのあたりは先日「書評『Running Lean 実践リーンスタートアップ』」というエントリで、今年の取り組みを総括した通り。この本は、原書でも、4月に刊行された訳書でも複数回読んで、今年、一番血肉となったものだと思います。

そのエリック氏が監修するシリーズの一冊として刊行された『Running Lean』や、その元となった『ビジネスモデル・ジェネレーション』は、ともすれば技術に偏向しがちな僕の性質を、今年、広い世界に向けて解き放ってくれた本でもあります。技術者としては元より、仕事をする者としてより一層研鑽に励みたいと思います。

Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)

Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)

ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書

ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書

4 ばるぼら岡崎京子の研究』

岡崎京子の研究

岡崎京子の研究

今年は、「ヘルタースケルター」の映画公開により、再び岡崎京子さんの仕事に注目が集まった年でした。長年のファンとして、とてもうれしく思うところです。「映画「ヘルタースケルター」を見て岡崎京子を知ったひとへ送る数冊」なんてまとめを書いたりもしました。

本書は、あのばるぼらさんが書いているからには一筋縄ではいかない、驚異的な博捜による膨大なデータが詰まった本。年来のファンでも知らないことがたくさんあり、また、70年代後半〜90年代半ばにかけてのサブカルチャを、岡崎京子という軸から眺める本でもあります。読んでいてひたすら楽しい「研究書」。

ヘルタースケルター (Feelコミックス)

ヘルタースケルター (Feelコミックス)

ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね

ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね

5 小島寛之『数学的推論が世界を変える』

数学的推論が世界を変える―金融・ゲーム・コンピューター (NHK出版新書 394)

数学的推論が世界を変える―金融・ゲーム・コンピューター (NHK出版新書 394)

平易に数学を語らせたら当代一であろう小島先生による、最先端の金融技術の紹介と思わせて、その実、ガチな数理論理学の入門書であるという本。金融まわりの話ももちろん面白いのだけど、そこで使われている理論、数学的ベースが、自分自身、興味をずっと抱いていながらも、なかなかちゃんと取り組めてなかった話なので、ひたすら興奮を覚えながら一挙読了したのでした。

昨年、前職の同僚らと『論理と計算のしくみ』読書会を行うも、ついていけずに断念するという苦い思い出のある分野なのですが、なぜか個人的に、ここにとても大切なものがあるはずだという確信がある分野でもあるので、本書でも紹介されていた鹿島亮『数理論理学』をじっくり読んでみて、少しでも理解を深めることができるよう、がんばっていきたいものだなあと思う次第です……。

論理と計算のしくみ

論理と計算のしくみ

数理論理学 (現代基礎数学)

数理論理学 (現代基礎数学)