デュルケームの「差異法」について
『原因を推論する -- 政治分析方法論のすゝめ』は、差異法は「デュルケムの『自殺論』においてとられた方法である」(p174)とするが、『社会学の方法―その歴史と構造 (叢書・現代社会学)』は「デュルケームは差異法ではなく、共変法が社会科学の因果同定手続きにふさわしいとした」(p82)としている。この齟齬により、共変法と差異法との違いがよくわからなくなった。
『原因を推論する』で紹介される「因果関係が成立するための三条件」は
- 独立変数と従属変数の間に共変関係がある
- 独立変数の変化は従属変数の変化に先立っている
- 他の変数を統制しても共変関係が観察される
の3つである(p15)。共変法は、このうち(1)は満たすが、(2)は不確定で、(3)を満たさない、そしてその場合であっても因果関係があるとみなす(ということだろう)。
しかし『社会学の方法』は、本来(1)(2)(3)全てを満たす方法を共変法というのだが、ミルやデュルケームは、(1)(2)(3)すべてを満たすものを差異法であるとしているのが奇妙だという(p82)。『原因を推論する』では、ミルにならって(1)(2)(3)すべてを満たすものを差異法であるとし、共変法についてはその単語はでてこない。なぜ『社会学の方法』が「それが共変法だと理解されることが多い」(p84)としているのかがよくわからなかった。
それはさておき、デュルケームは共変法を意図的に採用した。普通に考えると、方法論をより厳密にとって、上記の因果関係の三条件すべてを満たす差異法を採るところだろうが、デュルケームがあえて共変法を採った理由について『社会学の方法』は以下のように述べる:
未知の原因の可能性を認めなかったので、差異法を使う必要がなかった。彼にはありうる因果関係がすでにわかっていた。だから、それから外れる相関(共変)が見つかれば、その都度その都度、ありうる因果に還元すればよいと考えた。
(『社会学の方法』p108)
この部分は、なにやらデュルケームが傲岸不遜であるせいであるように思えるのだが、以下の文面から想像してもうちょっとデュルケームの寄り添って解釈すると、
一つ以外の条件が全てひとしいという差異法の適用条件は、現実にはきわめてきびしい。デュルケーム自身が指摘しているように、社会科学でこれが厳密にみたされる場合はほとんどない。
(同p107)
デュルケームが背負っていた生まれたての「社会学」の領域をより広く取り、制度として立ち上げ、軌道に載せるためにあえて採られた政治的な態度であったということか、と思われた。
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