メタ・マネジメント: ビジネスと技術とDXの均衡点を探ることと、その均衡をぶち破ること
今日、エンジニア職位制度に基づく面談をしていて、自分の職務のうちのひとつを言語化したということがあったので、メモっておく。
CTOとは何か?
CTOというのがなにをする役職であるかについては、基本的には以下のスライドで述べた通り。
上記で述べられている、4つのマネジメント対象のうち、ヒトについては全ての基盤になる要素であり、あとの3つを別の言葉でいいかえると以下の通りとなる(それぞれに重なる部分はあるが)。
3要素のバランス
組織の成長を最大化するという前提において、3要素それぞれについてバランスよくマネジメントして、そのいずれもが良い状態にあることが目指すべきところである(下図(1)の状態)。
その3つをうまいこと取り持つことで、上記の(1)のように3つのどれもに重なる部分を得られる時、技術マネジメントがうまくいっているとしよう。それ自体難しいことではあるが、一時的にはやってやれなくはないかもしれない。ただ、時間の経過によって、状況は変化していく。そうなった時、ある時点でうまくいっていたことが、現時点では必ずしもうまくないということが発生し得る。
(2)のような場合、これはよくあることだろうけれども、技術的に高度なことを行いエンジニアも楽しくやっているけれども、事業がうまくいってないとか、事業の目標とズレてしまっているとかという状況だ。エンジニアにとって、それは一時的には悪くはない状況であったとしても、会社全体として見ると遊離してしまっているわけだから、長続きはしない。事業が停滞している時に起こりがちだ。
一方で(3)のように、事業と技術とがともに高いレベルで調和しているが、その反面でエンジニアにとっての楽しさや待遇などを含めたDXがついてきていないということもまた、あり得ることだ。イケイケドンドンでがんばっているのだけど、技術者にとっての心地よい環境が、長い目で観た時に損なわれかねないような状況だ。これは、会社が成長フェーズに入った時に起こりがちだろうと思う。
そうしてズレてきてしまった3つの要素を、必要になるたびに再びうまくバランスし、成長が最大化する点で均衡を図るのが、CTOによる技術マネジメントである。
均衡を破る
というと、どこかに最適解が存在することを前提に書いているように思えるだろうが、実はそんなことはないのである。
役職としてそういう地位にあるからには、できる限りの能力を振り絞り、使える限りの時間を使ってマネジメントによる成果の最大化を図るのは前提である。しかし、私がいくら「天から目線」で自信満々であるように見えたとしても、そして実際にそのように振舞っているにしても、組織のように変数が多過ぎる環境下では、誰だってわからないものはわからないのである。マネジメントとは、そうした一般解のわからない方程式を、なんとかして解こうという営みでもある。
そこで重要なのが、ある意味で「蛮勇」ともいえる行為が「均衡」を破ることだ。私自身に、技術的な戦略はある。そして、それはそれなりに明晰であり有効なものであると自負している。しかし、それを知ってなお、エンジニア個々人が好き勝手に事をなしていくこと。そのことが、戦略に基づくマネジメントによる、上述の至らなさを超えて組織を「成長」に導く方法であり、また、それを行える環境を作ることこそが、メタ・マネジメントだ。
「ペバボのエンジニア職位制度のアップデートについて」で述べた通り、エンジニア職位制度を、たとえばCTOによる任命ではなく、エンジニア自身による立候補としているのも、戦略に基づく均衡の模索を打ち破るような「蛮勇」を適切に評価するためのものである。それがあってこそ、メタな意味において戦略が活きるのだと確信している。
まとめ
技術マネジメントとは、事業・技術・DXのどれもを、組織の成長を最大化するためにうまくバランスすることである。ただし、時間の経過のともなって、ある時点で最適なことが現時点では最適でないことが起きるため、継続的に均衡点を探っていかなければならない。一方で、そうしたトップダウン的戦略実行によっては解決不可能な問題を、個々人の「蛮勇」が変えていく、よりよくしていくということもまたあり得るし、それを実現できる環境を作るのが、あるべきマネジメント、すなわち、メタ・マネジメントである。