Kentaro Kuribayashi's blog

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個人的「2011年の本ベスト5」を選んでみた

今年も残すところ数日となりました。もうここに至って順位が覆されることはなかろうというわけで、個人的に選択した「今年の書籍ベスト5」について書きたいと思います。年末年始休暇のおとも探索に、少しでも役立てば幸いです。

  1. Project Japan by Rem Koolhaas and Hans Ulrich Obrist
  2. 東浩紀一般意志2.0
  3. 秋草俊一郎『ナボコフ 訳すのは「私」―自己翻訳がひらくテクスト
  4. デイヴィッド・ダムロッシュ『世界文学とは何か?
  5. 佐々木中定本 夜戦と永遠』(佐々木中氏のリリースラッシュを代表して)

「ここに至って」と上記しましたが、実際、今年は12月半ばになって読んだProject Japanがいちばん面白かったので、わからないものです。

今年は、この本の刊行や展覧会の開催、また、東日本大震災からの復興という文脈においても、「メタボリズム」に多くの関心が寄せられた年でした。この本は、そのメタボリズムを、関係者へのインタビューや膨大なヴィジュアル資料によって掘り起こしたものです。

この本は近い内に平凡社から邦訳近刊が予告されています。インタビューや図版で構成された本なので、特に難しい英語が使われているわけでもないし、原書で読んでも(ぱらぱらめくってみても)、十分に楽しめるものだと思います。いずれにせよ、是非読まれたいと思う次第です。

メタボリズム関連では前述本の他『メタボリズム・ネクサス』や展覧会の図録(もちろん、可能であれば展覧会そのものへ!)を、また建築一般については、今年、出版的な意味において最も勢力的に活動を行った建築家のひとりだろう藤村龍至氏らによる『設計の設計』『アーキテクト2.0』が読まれるべきでしょう。

Project Japan, Metabolism Talks…
Rem Koolhaas Hans-Ulrich Obrist
Taschen America Llc
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メタボリズム・ネクサス
八束 はじめ
オーム社
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設計の設計
設計の設計
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柄沢 祐輔 田中 浩也 藤村 龍至 ドミニク・チェン 松川 昌平
INAX出版
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アーキテクト2.0 2011年以後の建築家像―藤村龍至/TEAM ROUNDABOUTインタビュー集
藤村 龍至 TEAM ROUNDABOUT
彰国社
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東浩紀氏の新刊『一般意志2.0』は、謎に満ちたルソーの「一般意志」という概念を、昨今の情報環境を前提にあえてベタに読むことによって、先行き不透明な現状の霧を大いに晴らしてくれた本です。熟議に基づく民主主義に対置されるのが、人々の情念を大量に収集・解析した中から立ち現れる「一般意志」です。とだけ書くと素朴なネット礼賛に見えますが、もちろんそんなことはありません。

個人的にはローティの『偶然性・アイロニー・連帯』を今年読んで、まるで自分の考えていたことが全部、もちろん学問的にも思想的にもまったくブラッシュアップされて書かれているように思えて驚いたのですが、『一般意志2.0』は後半で、ルソーの「憐れみ」とローティ「共感」とをつなぎ、「公共性」とは何かという議論について、驚くべき展開を行っています。是非読みましょう。

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル
東 浩紀
講談社
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偶然性・アイロニー・連帯―リベラル・ユートピアの可能性
リチャード ローティ
岩波書店
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今年もまた、ナボコフイヤーというべき優れた仕事がたくさん成された年でした。秋草俊一郎氏による『ナボコフ 訳すのは「私」―自己翻訳がひらくテクスト』は、「マルチリンガル作家」というナボコフ像を更に進め、「自己翻訳する作家」として、ナボコフの新な面を提示しています。『エヴゲーニイ・オネーギン』翻訳における「ラセモサ」をめぐる章は、ただただ圧巻!!1

ナボコフについては、小説としては『ナボコフ全短編』『ローラのオリジナル』『カメラ・オブスクーラ』が、研究としては『書きなおすナボコフ、読みなおすナボコフ』の刊行が大きなところでしょう。また、上記著者(秋草氏)も訳者のひとりである『世界文学とは何か?』も、世界文学の博捜による幅広い好奇心と飽くなき知識の探求にひとを駆り立てる、優れた書物です。

ナボコフ 訳すのは「私」―自己翻訳がひらくテクスト
秋草 俊一郎
東京大学出版会
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ナボコフ全短篇
ナボコフ全短篇
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ウラジーミル・ナボコフ
作品社
売り上げランキング: 69618

ローラのオリジナル
ローラのオリジナル
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ウラジーミル・ナボコフ
作品社
売り上げランキング: 38819

カメラ・オブスクーラ (光文社古典新訳文庫 Aナ 1-1)
ナボコフ
光文社 (2011-09-13)
売り上げランキング: 70694

世界文学とは何か?
世界文学とは何か?
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デイヴィッド・ダムロッシュ
国書刊行会
売り上げランキング: 129933

最後に、今年は新刊だけで5冊のリリースラッシュ、また、一般誌・カルチャー氏などにも頻繁に登場・活躍した佐々木中氏の、2008年に刊行されたデビュー作が文庫化された『定本 夜戦と永遠』を挙げておきましょう(実際、僕も2011年になってようやく読了したので、文庫化されたのも2011年だし、「今年のベスト5」に入れてもよいでしょう)。今年矢継ぎ早に刊行された著者の「アナレクタ」シリーズなども大変に面白いのですが、やはりこの本の熱量にこそ、たとばこの年末年始の休暇を利用して、あてられてみるのもよいでしょう。