Kentaro Kuribayashi's blog

Software Engineering, Management, Books, and Daily Journal.

2013年の本ベスト5

今年はわりと雑駁な本をあれこれと読んだり、後半はだいぶ偏った本ばかり読んでいたりして、各ジャンルからまんべんなく5冊あげるものなかなか大変でした。ブクログでちゃんと読書記録をつけるようにして、ようやく2013年にして一年間まるまる記録できたので、今年はその一覧を元に選んでみました。

というわけで、今年の本5冊。

  1. 復興文化論
  2. 組織パターン
  3. はなとゆめ 電子ビジュアル版 (角川書店単行本)
  4. 物語 シンガポールの歴史 (中公新書)
  5. シークレット・レース (小学館文庫)

ちなみに、過去のランキングはこちら。

『復興文化論』(福嶋亮大)

復興文化論

復興文化論

日本人が大きな災厄に対するに、「無常感」や「侘び寂び」といった美学化された諦めをもってなすという通念的理解に抗して、柿本人麻呂紀貫之に始まり平家物語へ、水滸伝に寄り道しつつ江戸の思想家たち、明治の夏目漱石、その後の川端康成三島由紀夫、さらには宮﨑駿・村上春樹を経て、「災厄の後=跡に咲く花」としての日本文学の「歴史の天使」(ヴァルター・ベンヤミン)を見出すこの本は、それ自身が大仰に誇ることはもちろんないにしても、まさに「災厄の後=跡」であるいまに希望を与えるものでしょう。読んでる最中、次々に現れる未知の見解にひたすら圧倒され、興奮しました。

批評・思想分野については下記2冊もまた素晴らしかったと思います。

『組織パターン』(James O. Coplien, Neil B. Harriosn, 和智右桂 (翻訳))

組織パターン

組織パターン

会社勤めをしているからには「組織」というものに対して無知ではいられず、通りいっぺんの学習はしてきたものの、学としてそんなに面白いものだとは思っていませんでした。その蒙昧を啓いてくれたのがこの本。人間たちからなる組織をいかにうまく構成、運用し、よりよいものをつくり上げるかについて、経験主義の行き過ぎにも思えるアジャイルに対して、学的知見をパターンという形で盛り込んだ本書は、"There is nothing more practical than a good theory"というKurt Lewinの言葉を信じるものとして、組織論の真の面白さを知らしめてくれるものでした。

本書の射程中にあるスクラムは、今年このブログでも書いた通り、僕の大きな関心事のひとつでもありました。今年は関連書籍がいくつか刊行されましたが、そのなかでも以下が特に優れていたと思います。

WEB+DB PRESS Vol.78

WEB+DB PRESS Vol.78

『はなとゆめ』(冲方丁)

はなとゆめ 電子ビジュアル版 (角川書店単行本)

はなとゆめ 電子ビジュアル版 (角川書店単行本)

渋川春海水戸光圀を描く、異様に面白い歴史小説で我々を驚かせた冲方丁さんが、今度は清少納言に取り組んだということで、前二編についてはある意味イメージ通りという感じではあったものの、枕草子の世界はまた異質なものだろうとおそるおそる読み始めてみたところ、そこに現れたのはまったくの少女漫画的世界だった。『枕草子』や、史実に基づくエピソードを清少納言の一人称で描くその物語は、『日出処の天子』や『あさきゆめみし』などの歴史漫画に耽読したあの感覚を、さらにブラッシュアップして再現してくれます。ひたすらうっとり。冲方丁さん、マジすごすぎる。

今年出た本ではないですが、本書関連では是非『源氏物語の世界』をあわせて読まれたい。その他、小説はほとんど読めなかったのですが、東浩紀さんの新刊『クリュセの魚』素晴らしいものでした。

源氏物語の時代―一条天皇と后たちのものがたり (朝日選書 820)

源氏物語の時代―一条天皇と后たちのものがたり (朝日選書 820)

『物語 シンガポールの歴史』

物語 シンガポールの歴史 (中公新書)

物語 シンガポールの歴史 (中公新書)

技術カンファレンスでシンガポールに行くことになったので、少しはどういうところなのか学習しておこうと思い、ちょうどタイミングよく刊行された本書を読んだのですが、あまりの面白さに大興奮し、シンガポールの旅をさらに面白くしてくれました。東南アジア諸国の開発独裁体制の中でも最も成功し、いまもまだ成長し続けるパワーは、実際にいってみて「あー、こりゃ勝てないなあ」と驚くほかなかったのでした。20世紀の後半のあのタイミングで、リー・クアンユーという天才が現れ、貧しい第三世界の島国をここまでにしたことの熾烈さを思うと、功も罪もともにあまりにも深くて、興味は尽きない。

帰国してからもリー・クアンユー熱が冷めやらず、あれこれと本を買って読んでいたのですが、そのうちのひとつがさっそく翻訳されていたので、是非読まれることをおすすすめしたいと思います。日本にはかつて存在したことのなかっただろう圧倒的な知性(もちろん、いい意味だけではないが)。

リー・クアンユー、世界を語る 完全版

リー・クアンユー、世界を語る 完全版

『シークレット・レース』(Tyler Hamilton, Daniel Coyle, 児島 修 (翻訳))

シークレット・レース (小学館文庫)

シークレット・レース (小学館文庫)

同僚らとの会話により自転車熱が再燃して、放置していたロードバイクをオーバーホールに出して再び乗り始めたのにともない、それまで興味のなかった自転車レースについても知りたくなり、本や漫画をあれこれと読んだのでした。その中でも出色だったのがこの本。もうひたすら面白く、興奮的なその内容については「タイラー ハミルトン、ダニエル コイル『シークレット・レース』」に書いたので繰り返さない。とにかく読んでほしい。

今年はツール・ド・フランス100周年ということで関連本がたくさん刊行されたが、中でも以下の本がバランスのよい記述ぶりで優れていた。

ツール・ド・フランス (講談社現代新書)

ツール・ド・フランス (講談社現代新書)