Kentaro Kuribayashi's blog

Software Engineering, Management, Books, and Daily Journal.

アジャイル開発プロセスの組織論的文脈における研究の現状

アジャイル開発手法の採用による影響についての論文について、日本語論文についてCiNiiを、英語論文についてはGoogle Scholarを検索して調査した。主に、以下の通り分類できる。

  1. 品質管理に関するのもの
  2. 生産性に関するもの
  3. 生産管理手法としての他プロセスとの比較

上記分類以外の、組織論的文脈(マクロ/ミクロ双方)での研究が、管見によるとほとんど存在しない(英語論文では、たとえばスクラムでいうところの「自己組織化チーム」についての研究や、リーダーシップ論に関わる研究は、少数ではあるが存在する)。ここでいう「組織論的文脈」とは、たとえば以下のような領域のことをいう。

  1. アジャイル開発が導入する組織構造と既存の公式組織の関係について
  2. PO/SM/自己組織化チームと既存のモティベーションやリーダーシップ理論との関係について
  3. 人事評価やキャリアプランについて
  4. アジャイル開発と組織学習の関係について

以下の原因を推測した。

  1. ソフトウェア工学の人々によって研究されているから
  2. SIer的な多層構造や受託開発の文脈でアジャイル開発が採用されているから
  3. そもそもあんまり採用されてないから

そもそもアジャイル開発プロセスを採用するか否かは、経営判断によるものである。上記のようなソフトウェア工学的な研究が課題に対する解決をもたらすのは当然だとしても、経営組織や、組織行動論的な文脈における研究がなされていないことは、課題解決に際して一面的な見方であるとも思える。組織論的文脈においての研究が期待される所以である。

もちろん、スクラムの生みの親が語る、スクラムとはなにか? たえず不安定で、自己組織化し、全員が多能工である ~ Innovation Sprint 2011(前編) - Publickeyアジャイルって組織論ですよね(DevLOVE2012ご報告) - arclampなどに見られる通り、そうした領域に対する関心がないわけではない。しかし、研究の水準においてはまだまだこれからといった現状のようである。

また、ソフトウェア開発におけるアジャイル開発に限ることなく、製造業(その中でもアジャイル開発に影響を与えた自動車産業、具体的にはトヨタ生産システムなど)の研究を参照すれば、アジャイル開発プロセスの組織論的文脈における研究にとって参考になる先行研究が存在することは充分に考えられる。ただし、ソフトウェア、その中でもWebサービスと製造業とでは文脈がかなり異なるため、ただちに適用可能かどうかは検討の余地がおおいにあると思われる。

その上で、以下のような疑問を抱いています。