Kentaro Kuribayashi's blog

Software Engineering, Management, Books, and Daily Journal.

首都大学東京ビジネススクール不合格記

首都大学東京ビジネススクールの2014年度入学試験を受験し、不合格となりました。本エントリでは、この日をもって終わった久々の受験生生活をふりかえります。

受験の経緯

このブログでしばしば書いている通り、去年は勤務先でスクラムを導入したりしていました。ソフトウェア工学的な意味での開発プロセスとして興味深いのはもちろん、僕にとってそれはむしろ、組織とはなんなのか、企業組織とはいかにして可能なのか、そしていかにしてそれを良くし得るのかという、どちらかというと組織論(とか組織社会学?)的な問いを喚起するものでした。

ちょうどそういうことを考えていた折り、尊敬するジム・コープリエンさんらの『組織パターン』という本が訳されて、さっそく読みました。それがとても面白く、実践的にも役立ったので、もう少し組織論を学習してみようと思ったのです。次に読んだのが『組織論 補訂版 (有斐閣アルマ)』という教科書。簡潔かつ過不足のない記述ぶりで、この分野の面白さを教えてくれる本です。

そうやってあれこれ本を読んでいるうちに、2013年の11月になりました。ふと、大学院でこうしたことについてちゃんと学習してみたいという気持ちになって、そもそもどういう学校があるのだろうと検索したところ、母校の東京都立大学(現・首都大学東京)のビジネススクールが後期日程を募集しているのを発見。院試のシーズンはもう終わったものばかりだと思っていたので来年にでもと思っていたのですが、前述の『組織論』共著者の先生もいらっしゃるし、受けてみようと思い立ったのでした。

(組織論だけでなく、経営学における他の領域(特に技術経営やファイナンスなど)にも興味があるのでひと通り学習したいというモチベーションもあるのですが、それについては省略)

試験の内容

試験要項によると、受験者は以下の3つでその資格を判断されるとのことでした。

  1. 研究計画書
  2. 小論文
  3. 口頭試問

まず、研究計画書について。そもそも僕は卒論を書かなくていい学部を出たので、論文というものを書いたことがありませんし、学士卒なので研究もしたことがありません。なので、『研究計画書』というものをどう書いたらいいのかわからない。そこで『国内MBA研究計画書』を読んで感じをつかみました。

国内MBA研究計画書の書き方―大学院別対策と合格実例集

国内MBA研究計画書の書き方―大学院別対策と合格実例集

あまりにも漠然とした内容ではよくないだろうということで、研究のフィージビリティを考慮して、かなり範囲をしぼって書きました。スクラムのうちでも、その特徴をなすリーダーシップの区分に沿って、それが実際にどのようなものとして現れるかを実証的に研究しようという内容です。以下に公開してあります。

次に、小論文。首都大学東京BSは過去問を全部Webで公開しているので、どういう問題が出るのかはあらかじめわかります。しかし、経営学一般についてこれまで特に系統的に勉強してきたわけではなかったので、ざっと見たところ、全然歯が立たなさそうな問題がいくつもありました。そこで、ひと通り教科書などを読んで学習しておこうと思い立ちました。

口頭試問については、特になにをすればよいかもわからないので、上記の準備をしっかりやっておけばだいじょうぶだろうということで、学習に専念することにしました。

受験へ向けて

上述内容の試験に向けて、2013年11月〜2014年2月の受験までに読んだ、経営学や組織論関連の書籍について書いていきます(長いです。その後に続きもあります)。

経営学一般

ゼミナール 経営学入門 ゼミナールシリーズ

ゼミナール 経営学入門 ゼミナールシリーズ

この本を読む直前に、理論社会学の本を何冊か読んでうんうんうなっていたので、異様にわかりやすくて、こんなに書かれている文章が理解できていいのだろうかと思ったりもしましたが、それはともかくとして、経営学の取り扱う領域について一望できて便利でした。

はじめての経営学

はじめての経営学

そもそも「経営学」という学問領域が、なにを含んでいるのかをあまりよく知らなかったので、ひととおりオーバービューを得られる本を、というわけで、最近出たこの本を読みました。各分野の一線で活躍されている先生方によるそれぞれの分野の紹介。

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

これもオーバービューを知るために読んだ本。アメリカの大学で経営学研究に携わっている著者による、経営学における最先端のトピックが紹介されている。

グループ経営入門〔改訂版〕

グループ経営入門〔改訂版〕

首都大学東京BSの松田先生の本。説明会での模擬講義を聴いて、その講義ぶりに感銘を覚えたので、最新の著書を読んでみました。自分自身、企業グループのいち企業の従業員なので、いろいろ勉強になりました。

経営革命大全

経営革命大全

10年以上前の古い本で、90年代の経営学におけるブームとなったトピックについてまとめた本なのですが、その時代に関するまとめとしては非常に浩瀚にわたっていて、そのタイトルのアレな感じとは異なり、とても勉強になる本でした。

経営戦略

ソフトウエア企業の競争戦略

ソフトウエア企業の競争戦略

ソフトウェアエンジニアとしては当然、本書が話題にするソフトウェア企業の競争戦略は一番気になるところ。10年以上前の古い本ではあるものの、製品企業/サービス企業における戦略の違いや、製品企業もまたサービス企業化していく流れについてなど、得るところが多い。

組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために (ちくま新書)

組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために (ちくま新書)

経営戦略の思考法

経営戦略の思考法

組織デザイン (日経文庫)

組織デザイン (日経文庫)

一橋の沼上幹先生の本は、『組織戦略の考え方』をその刊行当初に読んで、この分野に関心をおぼえるきっかけを作ってくれました。『経営戦略の思考法』は、「戦略サファリ」(ミンツバーグ)などといわれもする経営戦略論に対して、異様にわかりやすい見取り図を提供してくれて便利。『組織デザイン』は、学習にとって有益である以上に、実務にとても役立っています。

ストーリーとしての競争戦略 (Hitotsubashi Business Review Books)

ストーリーとしての競争戦略 (Hitotsubashi Business Review Books)

沼上幹先生が『行為の経営学』で書いたような「意図せざる結果」を明らかにするための「行為システム」の記述による因果メカニズムの解明を、いい感じにきれいにしたような「ストーリー」は、なんかにわかには信じられないのだけど、面白さは抜群。

組織論関連

組織論 補訂版 (有斐閣アルマ)

組織論 補訂版 (有斐閣アルマ)

首都大学東京BSの桑田先生の共著書。いかにも教科書という感じですが、幅広い話題を扱う組織論について、あまり硬くなりすぎずにひと通り理論を紹介していており、また、組織論の教科書自体がそんなにないので、便利。

キャリアで語る経営組織 --個人の論理と組織の論理 (有斐閣アルマ)

キャリアで語る経営組織 --個人の論理と組織の論理 (有斐閣アルマ)

ひとりの若者が企業に入り引退していくまでの人生 = キャリアを通して、組織論の話題についてひと通り見ていこうという本。個人的にはキャリアにあまり興味がないのですが、そういうのの方が入りやすいひとはいるとは思います。

現代組織論

現代組織論

『組織論』のもうひとりの著者による、最新の教科書。こちらはかなり学説のまとめという感じで、扱われているトピックは新しいものが多いけれども、記述は平板で、ちょっとつらかったです……。

組織の経営学―戦略と意思決定を支える

組織の経営学―戦略と意思決定を支える

いかにもアメリカの教科書という感じ。

知識創造企業

知識創造企業

スクラム」という言葉の元になった論文を書かれた野中先生の代表作。

学習する組織――システム思考で未来を創造する

学習する組織――システム思考で未来を創造する

最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か

最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か

90年代初頭に「学習する組織」ブームを築いたピーター・センゲの本。個人的にはシステム思考は非常によいツールだと思うけれども、実際に使うとなるとなかなか難しい。原著旧版と新版で翻訳が別々に出ているのだけど、上述の『知識創造企業』で旧版が批判的に紹介されていて、新版を先に読んだ記憶では的はずれな批判だと思ったので、旧版も参照するために買って読んだのでした。

公式組織の機能とその派生的問題 上巻

公式組織の機能とその派生的問題 上巻

初期ルーマンによる組織論についての本。後年になるにつれ複雑化していく社会システム理論のアイディアが、比較的平易に用いられていて(まあそれは対象が組織だからというのもあるだろうけどれども)、ルーマン入門としてもよかったように思います。

組織行動関連

職場学習論―仕事の学びを科学する

職場学習論―仕事の学びを科学する

ダイアローグ 対話する組織

ダイアローグ 対話する組織

中原淳先生の本は、アカデミックな論証ぶりと実践への強い問題意識とが融合していて、研究のしかたという意味でも、実践者としても、非常に勉強になります。『職場学習論』は、その本主張について面白いのはもちろん、IT技術者は支援を得られていないという結果が出ていて、本職としては納得のいかない気持ちになったりしましたがw

現代ミクロ組織論―その発展と課題 (有斐閣ブックス)

現代ミクロ組織論―その発展と課題 (有斐閣ブックス)

ミクロ組織論についての教科書。ひと通りその分野のトピックについてとりあげられている。

経営組織―経営学入門シリーズ (日経文庫)

経営組織―経営学入門シリーズ (日経文庫)

働くみんなのモティベーション論 (NTT出版ライブラリーレゾナント)

働くみんなのモティベーション論 (NTT出版ライブラリーレゾナント)

リーダーシップ入門 (日経文庫)

リーダーシップ入門 (日経文庫)

金井壽宏先生の本はどれも面白い。文体は柔らかいし、話の運びも上手で読みやすい。アカデミックな蓄積をきっちり紹介しながら、実践家の「持論」とほどよくバランスを取って説明していくスタイルは、特に経営学に興味がないひとにとっても、読んで損はないと思える著作家だと思います。

1分間リーダーシップ―能力とヤル気に即した4つの実践指導法

1分間リーダーシップ―能力とヤル気に即した4つの実践指導法

状況適応型リーダーシップについて、お話仕立てでわかりやすく説いた本。この本は、読みやすいし、すごくためになるし、少なくともリーダーと目される立場にあるひとは読む必要があると思います。

ファイナンス

起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと

起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと

ファイナンスについても興味があるのだけれども、なかなか苦手意識が強いので、まずはこうした本で外堀を埋めつつ学習していこうと思って読んだ本。普通にいろいろと面白くて勉強になりました。

ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財務 (光文社新書)

ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財務 (光文社新書)

道具としてのファイナンス

道具としてのファイナンス

この著者の本は、異様にわかりやすくて、本当にためになりました。基本の基本という感じなのだろうけど、まずはここから。後者は、Google SpreadSheetで実際に表を作りながら読みました。

社会科学方法論

社会学の方法―その歴史と構造 (叢書・現代社会学)

社会学の方法―その歴史と構造 (叢書・現代社会学)

原因を推論する -- 政治分析方法論のすゝめ

原因を推論する -- 政治分析方法論のすゝめ

知的複眼思考法

知的複眼思考法

社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論

社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論

リサーチ・マインド 経営学研究法 (有斐閣アルマ)

リサーチ・マインド 経営学研究法 (有斐閣アルマ)

社会科学の研究法について全然知識がないことに気づいて、方法論についての本もいくつか読みました。読んでいるとけっこうのめりこんでいて、科学哲学の本なども読み始めたので、この分野がけっこう性に合っているようです。

経営読み物

小倉昌男 経営学

小倉昌男 経営学

宅急便の小倉社長の本。いろんな先生がやたらほめているので読んでみました。めちゃめちゃ面白い。ほんとにここまで考えてたのかな?と疑問に思ったりもしましたが、実際考えていたのでしょう。経営者というのはすごいものだなと関心するばかり。

小説仕立てで経営戦略について具体的に解き明かした本。やたら面白い。文庫版あとがきで、実は著者自身の経験だとバラしているのだけど、そりゃそうだろうというツッコミを読んでる者みな入れたのだろうなと思って、ほほえましい。

試験当日

本来の試験日であった2/15は、前日に記録的な大雪がふったため日程が延期となり、2/22に行われることとなりました。まずは口頭試問です。時間になるとさっそく呼ばれて、面接を受けました。内容は、志望動機などを訊かれるのかとおもいきや、そうした質問はなく、研究計画書の内容についての質問と回答に終始しました。

僕としては、ソフトウェア工学的な問題というよりは経営学や組織論の問題、とりわけ計画書においてはリーダーシップ行動のような組織行動論的な関心を持っているのだということ、そうしたことを是非ちゃんと学びたいという気持ちを伝えようと試みたのでしたが、結果的にだめだったという感じですね。

小論文は、組織論を選択しました。問いはふたつあって、

  1. 企業が環境の変化に対応できずに失敗する原因を述べよ
  2. 成果主義による管理システムの利点と限界を、なんらかのモチベーション理論に基いて述べよ

というものでした。(1)については、「環境」を製品市場・資本市場・労働市場にわけ、それぞれについて変化に対応できない原因について述べました。(2)については、マズローの欲求5段階説に基いて、利点と限界について述べました。そのいずれもそれなりにちゃんと書けたとは思うのですが、だめだったようです。

受験を終えて

これまでも興味の赴くままにあれこれと手を出して学習するということを好きでやってはいたのですが、それはそれで視野が狭くもなるだろうし、一度は「研究」という、歴史と伝統のある方法に基いて学んでみたいという気持ちでいたのですが、今回の受験は失敗に終わりました。原因として以下が考えられるように思います。

  1. 僕自身の学識不足
  2. 計画書および口頭試問での、研究テーマについてのプレゼンテーションの不備
  3. 提出した研究テーマと大学院の指導内容との相違

(1)については、まあそれなりにやったつもりなので、それでダメならしかたない。またがんばるだけです。(2)と(3)については、先にも述べた通り、外見上はソフトウェア開発の話であるにしても、いわゆる組織論の中で考えていきたいというモチベーションをきちんと伝えられなかったのが敗因なのかなと思いました。

今回の受験はダメだったけれども、この分野についての興味自体は持ち続けるだろうし、またそのうち進学に挑戦することもあるかもしれません。また、短期間に集中的に学習できたのは、それはそれで今後の自分にとってきっと役に立つだろうので、よかったように思います。