リモートワークにおけるビデオ会議にまつわる諸問題について
新型コロナウィルスへの感染拡大を抑制するための社会的な取り組みとして、リモートワークへの取り組みが急速に進展していきている。リモートワークによる協働を効果的に実行するために、ZoomやGoogle Meetなどのビデオ会議用ツールの利用が進んでいる。
それらのツールなしではもはやリモートワークを有効に実施することは不可能ですらある一方で、まったく課題がないわけではない。というよりもむしろ、課題が山積みである。本エントリでは、リモートワークにおけるビデオ会議に関する課題について素描してみる。
本エントリでは、ひたすらあれやこれやを問題として挙げているので、一見するとリモートワークやビデオ会議に対して全体としてネガティヴな印象を述べているように見えるかもしれないが、まったくそうではない。逆に、これだけ問題があってすらなお、ビデオ会議は便利。ただ、いまよりももっともっとよくできるだろうということである。
ネット接続環境
- 利用可能なネット接続の帯域が参加者によってまちまち
- ビデオ会議が増えると回線の契約内容によってはギガがヤバい
- ネット環境の差異によってプレゼンスが影響される
- 時間帯によっては著しく転送速度が下がってしまう
- 接続不良によりラグが大きいと、会話のテンポが悪くなる
プレコロナにおいては、ライフスタイルによってはWebブラウジングとSNSアプリの閲覧ができれば十分ということもあり得ただろう。ポストコロナにおいてはビデオ会議が当然になるため、誰もがある程度太い回線を利用可能でないとならない。
音声環境
- 人によって音声クオリティに差がだいぶある
- パソコンに備え付けのマイクを使うとキーボードの打鍵音が入る
- よほど指向性の高いマイクでも使わない限り、周囲にひとがいて家事とかしていると、生活音が入る
- 参加者がたくさんいる時に、誰の音声入力にノイズが入っているのかわかりにくい
- 自分のパソコンの音声入力をモニタリングしづらいので、音質が低くても気づけない
- そういうこともあり、話してないときはミュートする運用をすることになるが、今度はミュートしてるまま話してしまう
- ミュートをオンオフするのが面倒
- ふたつのミーティングに同時に参加したいが、映像はふたつ並べられるが、音声はふたついっぺんには聞きづらい
- 聴いている音はイヤホンで遮蔽できるが、話してる音は周りに聞こえてしまう
- 一日中イヤホンしてて耳が悪くなりそう
- 環境が悪くても指摘しにくい(音声に限らず、環境全般)
- ハウリングがうるさい
- ついついハウリングさせてしまう
ネット接続環境がまともなら、映像についてはパソコンについているカメラがそんなに悪いものでもないので、むしろ音声の方が差が大きい。より正確にいうと、映像におけるノイズと音声におけるノイズとは性質が違っていて、音声におけるノイズのほうがより気に障るということだろう。
映像環境
- カメラを置く場所に差があって、ひとそれぞれ画角が異なる
- パソコンの内蔵カメラを使っている人は正面で目が合うが、カメラの位置によっては、画面上で目があってるかどうかが非対称的
- 相手の視線がわからない(Zoomで女の子ばかり見てるみたいな問題もあるようですね)
- カメラをつけるべきでない状況でカメラをつけてしまう、カメラを消し忘れる
- 参加者が多くなってくると一覧性が低下していく
映像のクオリティについては、会議をする分にはそんなに問題というほどでもないように思えるが、従来のコミュニケーションにおいて視線を合わせる、視線をそろえるというのが重要であることからすると、ビデオ会議においては必ずしもそれがやりやすいわけではない。
セキュリティ・認証
- 関係ない人がはいってるかもしれない
- リモート用アプリのセキュリティ評価基準が必要そう
- 声だけで誰かを判別することが難しい(セキュリティ的な問題だけでなく、インタラクション的な問題でもある)
ビデオ会議における認証について、Zoomのミーティングに勝手に入られるという問題が話題になった。パスワードをかけていたとしても、本当に適切なものだけが入っているのかどうかはわかりにくい(普通のWebアプリでも同じではあるが)。
機材・物理的環境
- 凝りだすといろんなデバイスの組み合わせがあり、選択肢が多過ぎる
- ガジェットや機材が周囲にあふれかえる
- パソコンとの接続や電源等、ケーブルがたくさんあってウザい
- あれこれと場所を要するので、自分の部屋がないと高品質な会議セットを組めない
- スペックマシマシのMacBook Proでも、ビデオ会議をするとファンがうるさい
- どれぐらいのレベルの環境に揃えるべきかの基準がない
- 家族等が画面や音声等で割り込んでくる
- リモート会議してるかどうかが周りの人(家族等)に分かりづらい
- 仕事してるのかどうかが周り(家族等)に分かりづらい
機材については、ガジェット好きな者にはむしろ楽しいところでもあるけれども、組織的な運用としてはなかなか難しいところである。物理的な環境については、ある程度以上は部屋が広くなければ、工夫でどうこうできる範囲も限られそうだ。
会議ノウハウ・コミュニケーション
- 発話がかぶりがち。発話タイミングを見計らうのが難しい
- 多数決をとろうにも、決をとりにくい
- 入るべき人がはいってるかどうかを確認しにくい
- 会議にどの人がいたかの証跡が残らない(Zoomだと出席者ログのような機能があるようだ)
- ファシリテーション必要だが、支援機能が足りなくてけっこうやりにくそう
- 意思表示しにくい。意思表示のために、必ず言語化して発言する必要がある。
- 議事録を画面に表示しながらやりたくても画面共有が全画面つかってしまう
- いきなり話し始めると誰かわからないので名乗るのだが、いつも名乗ってから発言するのだるい
- フィードバックが少ないので虚空に向かって話してる感じになる
- 合いの手をいれにくい
- リモート飲み会、終わりどきがわからなくて飲み過ぎがち
- 会社のイベントとしてのイベントなので経費精算したくてもリモート飲み会だとやりにくい
この辺は技術的な問題もあるだろうし、ノウハウが発達することで解決される課題もあろうかと思う。ただ、ビデオ会議では、基本的には言語的・主体的なフィードバックは容易にできるが、非言語的・非主体的なフィードバックを行いにくい。以下の図のような感じ。
実際の集まりでは、つまらなそうにしてるとか、うなずきながらきいてくれてるのでこの調子でいこうとか、後者のフィードバックが多く活用されている。その辺のフィードバックを拾いにくいので、話がしにくいというのはかなり根本的な問題だろう。
おわりに
ひとは常に生身ではなく、能力拡張してくれる道具を用いてきたが、リモートワークになっていくとそもそもすべてを情報環境を通してやりとりすることになる。そこには、これまでの人間のあり方からは飛躍があると思う。要するに、回線や映像、音声の環境がそのひとの能力とは無関係にあり方そのものを決めてしまう。そういう意味で、情報環境における身体の問題は重要だと思っている。
落合陽一さんは、昨今の状況において、現下の状況があまりにも課題含みであり、VR云々以前にビデオ会議すらもまだまだまともにできたものではないということを、いくつかの場所で語っている。
ウィズコロナで生きていくために必要なことを自分なりに考えていた.全てがオンラインに移行できるわけでもないし,低解像度のVRゴーグルや未来的なインターフェースが状況を打破するとも思えない.3Dプリンタや未来ガジェットにその夢を託すほど時間がない.これはそういう研究をする自分としてはもどかしいことの一つだ.
アフターコロナというよりは,あと数年「ウィズコロナ」で生きていくための世界観に移行し始めた.未来ガジェットに夢を託すほどの能天気さは僕にはない.|落合陽一|note
自分自身も研究者としてもやっていこうと思っているところなので(この4月から博士前期課程に進学したこともあり)、このあたりの課題(=ペイン)をとりあえずひととおりリストアップしてみることで問題集を作っておこうと思い、ひととおり書いてみた。他にもこういう課題があるよというフィードバックを歓迎する。