Kentaro Kuribayashi's blog

Software Engineering, Management, Books, and Daily Journal.

アイディア出しワークショップをした話

ここのところやっている業務のひとつに「リーン・キャンバス」の作成支援があります。それがどういうものであるかは「「開発者のためのリーン・スタートアップ」「リーン・キャンバス入門」の資料を公開します」をご覧いただきたいのですが、このフレームワークは、新規・既存とを問わず広く使えるものであると、複数のチーム、サービスでの実践を通して、確信しつつあるところです。

ところで、この数日、ある新サービス開発に先立ってキャンバスをみんなで作ってみたところ、理屈として筋は通っているように見えるし、大きく間違えているところもないように思えるのだけれども、どうもメンバーが納得できないということがありました。

Build/Measure/Learnループを回す前提としての仮説検証を立てるために、まずキャンバスで問題設定をし、共有することは重要です。しかし、いくら議論を尽くしてキャンバスを作成したとしても、たとえば:

  • 競合、あるいは、脅威となり得る他社を超える価値をなかなか見出せない
  • 市場規模についてフェルミ推定などによりざっくり算出してみたら、Maxでもたいしてもうからない
  • そもそも仮説検証サイクルをまわしてもあんまりヒットする実感を持てない

といった理由で、そもそも仮説検証ループに入ることができないということもあります。今回は、まさにそのような事例でした。そこで、方向を転換して、「問題」に対する「価値」を、あらためてブレストベースで考えようというフェーズに移行しました。

「さあ、新しい、素晴しいアイディアを考えよう!!1」といっても、なかなかいいアイディアなど出てこないのは、当然のことでしょう。そこで、アイディア出しの方法が、これまでにいろいろ考案されているわけです。ふわっとした思考に対して、ものごとを考える上での補助線や、道筋を適切に設定することが重要です。そのために各種、思考のためのフレームワークやツールというものがあるわけですが、今回は「オズボーンのチェックリスト」を用いてみました。これは、よく知られたシンプルな方法ですが、有用なものであると思います。

あるベースのアイディアがあったとして、それをもうちょっとふくらませたい。そんな時に使えるのがこの手法です。そのベースを、それぞれ「転用」「応用」「変更」「拡大」「縮小」「代用」「置換」「逆転」 「結合」していきます。具体的には「アイデアを大量生産できる最強のフレームワーク「オズボーンのチェックリスト」 」という記事が詳しいので、そちらを読まれるとよいでしょう。その際、そのエントリで紹介されている以下のような図を使って整理すると、効率がよいでしょう。

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また、せっかく我々はチームで仕事をするのですから、アイディア出しを個人に留めておく必要はありません。フレームワークは個人の思考を活性化させる手伝いはしますが、チームで仕事をする醍醐味は、複数の脳が集まることによる、ある種神秘的といい得るような「創発的」なアイディアの生成です。フレームワークにより活性化されたメンバーの思いを、より高次元のいわば「集合的無意識」として組織し、それがアイディアとして「創発」するのを助けるための手法が、いわゆる「ワークショップ」です。

具体的にはどうするか。まず、キャンバスを作成しているので、ベースとなる「価値」(アイディア)は存在します。それは簡単な文章により記述されていて、たとえば「スマートフォンで普通のひとが小説を売るためのプラットフォームを作る」みたいなものだったりします。

この文章を分解すると「スマートフォン」「普通のひと」「小説」「売る」という単語が得られます。分解するだけでなく、さらにそれぞれの単語について考えてみると、「小説」という単語には、「ノンフィクション」「ビジネス書」「科学書」などの類語が存在するし、「売る」という言葉からは「購入する」という対概念が想起され……といった具合に、そのリストはどんどん増えていきます。それらそれぞれについて、先に紹介した9つの操作を施し、ベースアイディアの文章を変換していきます。このような作業を、まずは15分などの限られた時間を区切って、個々人でひたすら付箋に書きこんでいきます。

ここで重要なのは、先の図の9つの操作は、単なる思考の補助線に過ぎないということです。フレームワークやツールは、もやっとしたとこに道筋をつけるためのものであって、アイディアをそこにあてはめるためにあるわけではないのです。面白いことを思いついても、それが9つのどれにあてはまるかわからないから捨てよう、なんてことになったら、それこそ本末転倒。あくまでも道具だということを忘れないようにしましょう。

時間が経過したら、今度は、あらかじめホワイトボードに先の図を書いておいたところに、各人が付箋をはりつけながら、時には思い付きのフレーズだけのものだったりするものを、簡単に説明し、一方、それを聴いているひとは適宜「それはもっと具体的にはどういうこと?」「こうも考えられるんじゃない?」といったツッコミを入れることにより、個人ベースのアイディアに重層性を持たせていくとよいでしょう。本人がまだふわっとした思い付きとしか思っていなかったものが、意外と面白いアイディアに発展したりするものです。

そうして、9つの軸に沿ったアイディアが集まったら、次は収束させる段階。ここでは素直にKJ法を用いればよいでしょう。ここでも、メンバーそれぞれが違う思いから着想したアイディアたちが、思いもよらぬしかたでグルーピングされていき、新たな高次元のアイディアに発展することもあるのは、こうした手法を実際にやってみたひとは誰もが知るところでしょう。まさに、集合的無意識が可視化され、それが自然とよいアイディアに収束する神秘を感じる瞬間です。

さて、このようにしてチームメンバ全員で、新たなアイディアを生むことができました。忘れてはならないのは、我々はただ最初からアイディア出しのみをしたわけではないということです。ベースのアイディアがあったからこそ、効率的な作業が可能となりました。それは、時間をかけてきっちりと、論理的にリーン・キャンバスを作成したからです。それを忘れてはいけません。また、このようにして得たアイディアを、再びキャンバスへとフィードバックして、さらに精緻な仮説検証へと落とし込んでいくことが必要でしょう。

考具 ―考えるための道具、持っていますか?

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