書評『スマートフォンのためのUIデザイン』
tikedaさんより、新著『スマートフォンのためのUIデザイン』をご恵投いただきました。ありがとうございます。結論からいうと、名著、英語でいうと、"Epic, just epic"って感じ。必読です。
スマートフォンのためのUIデザイン ユーザー体験に大切なルールとパターン
- 作者: 池田拓司
- 出版社/メーカー: ソフトバンククリエイティブ
- 発売日: 2013/03/30
- メディア: 大型本
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本書は、スマートフォン用のアプリ・ウェブサイトのパタンを分類・整理した上で、網羅的に紹介する本です。かつての類書に『iPhoneアプリ設計の極意 ―思わずタップしたくなるアプリのデザイン』という本があって、これはこれで素晴しいのですが、本書はカタログに徹したことで、さらに価値を高めていると感じました。
そもそもデザインにとって、パタン化は伝統的な営みです。AppleやGoogleの提供するデザインガイドラインはもとより、本書でも紹介されているJEITA規格「AV機器の表示用語及び図記号」のような規格もありますし、クリストファー・アレグザンダーによる「パタン・ランゲージ」も想起されてしかるべきでしょう。
現在、ユーザ要求は複雑化の一途をたどり、かつ、デバイスの多様性も増す一方です。そのような状況では、デザインにおいても当然、ロジックを離れて感性のみに依拠することは許容され難いのは当然のことです。本書は、そのような状況に応えて、
- 画面の分類
- UIコンポネントの分類
- UIコントロールの分類
- ナビゲーションの分類
- アクションの分類
- 画面遷移の分類
といった、それぞれのレイヤにおける分類を水平的に示した上で、それらパタンをアプリケーションとして垂直に統合する組合せを提示することで、あり得るUIデザインを網羅します。画面パタンには「導入」「トップ」「一覧」「詳細」等々があり、その画面を構成するUIコンポネントには「ヘッダ」「フッタ」等々があり……といった具合に、まず水平な分類を提示した上で、それらを垂直に統合するという二次元の軸で整理し、かつ、それぞれについてスタンダードなもの、バリエーション、例外的なものについても説明することで、網羅性を担保しています。
スマートフォンアプリ・サイトのUIを設計する過程で「○○アプリの××みたいな感じで」といった会話をした経験が、多くのひとにあったことと思います。プログラマにとっての「デザインパタン」が開発コミュニケーションにとって非常に重要であるのと同様に、本書はスマートフォンUI設計にとって必須のボキャブラリを提供します。語彙が平準化されることで、より正確で簡潔なデザインコミュニケーションが可能となり、ひいてはよりよいUIデザイン、エクスペリエンスの提供につながることでしょう。
とはいえ、パタンさえあればそれで解決するかといえばもちろんそんなことはなく、著者は高度に自覚的です(本書「あとがき」より)。
パターンやルールはあくまでも基準の1つです。その基準があるからこそ、もっとよいUIがあるのではないかという探究心も芽生えます。そして、その気持ちが本当によいものを導き出すことを願っています。
ユーザーにとって、よきデザインになることが何よりも大切なことだからです。
本書によってパタンを学び、クリアな認識による効率のよいデザインコミュニケーションを通してこそ、さらにその先をいく優れたUIデザインが生まれるのでしょう。というか、それなしでよいデザインが生まれることはあり得ないと、確信します。本書が必読である所以です。