村上龍『空港にて』
- 空港にて
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- 村上 龍
- 文庫
- 4167190060
- 2005/05
- ¥420
- 文芸春秋
村上龍さんの、『どこにでもある場所とどこにもいないわたし』を改題して文庫化した短編集『空港にて』を読みました。収録作はどれも、時間をぎゅーっと凝縮した中であれこれ観察したり、意識があっちへ飛びこっちへ飛びするといった趣向のもので、技巧を凝らしつつやっぱりいつもの村上作品的説教くささもあり、といった感じ。
たとえば最新作の『半島を出よ』なんかでもそうだけど、このひとの作品の場合、どっちかというとその主題が注目されがちなわけだけど、僕が好きなのはむしろこの短編集のような、エンターテインメント的な面白さと、現代小説としての高度な技巧とが両立している作品群で、具体的には『エクスタシー』『タナトス』『メランコリア』三部作あたりが一番好きです。村上龍さんについては、作品のテーマよりもむしろ、現代小説と呼ぶにふさわしい技巧を懲らしつつ、エンターテインメント的面白さを損なわない技量こそが評価さるべきだろうと思う。