エンジニア/エンジニアリングのビッグピクチャ
社外のある技術者たちと「会社のエンジニア、あるいは、エンジニアリングがどうなっていくべきかというビッグピクチャみたいなものがあるか?」という話になった。その場ではいろいろな内容が出てきたわけだが、不詳わたくし、技術責任者という役職を務めている者としてどう思うかというと、そんなにかっこいいことを考えているわけではなかったりする。実際にかねがねいっていることがあるとすれば:
- 変化に対応できるよう、エンジニアとして成長しつづけよう
- 他のひとにない、何か自分が一番の得意分野を作ろう
というぐらいである。このフレーズだけでいえば、なんのことはない、いってみれば当たり前、というか、誰でも思いつくような話だ。しかし、ことはそう簡単ではないと思っている。
ひとくちに「成長」といったところで、どれぐらい成長すればいいのかという問題がある。一番わかりやすい基準は、我々は上場企業であるということからいうと、市場の期待成長率を上回ることである。その上で、個々のエンジニアとしての能力の総和としての組織能力が、事業としての成長にどれぐらい寄与するかという問題もある。つまり、エンジニアリングに関する組織能力を業績に変換する際の歩留まりがどれだけあるかという問題だ*1。
以上をまとめると、我々は以下の不等式を満たす必要がある*2:
エンジニアリングに関する成長率 × 歩留まり > 市場の期待成長率
歩留まりに関しては、開発プロセスの改善や、そもそも、ビジネスの構想・実行の精度によるが、これは直接にはエンジニアリングにおける成長の問題ではないので、ここでは議論しない(興味がある向きは、開発プロセスという面において我々が書いたWEB+DB PRESS Vol.78を読んでいただきたい)。その歩留まりをかけてなお市場の期待成長率を上回るというのが、上記にいう「成長」の意味するところである。
その「市場の期待成長率」がどれぐらいかというのを公開情報に基いてここで計算してもよいが、それはそれでいろいろ問題があり得るので止す。「エンジニアリングに関する成長率 × 歩留まり」がそれを上回るにはどれほどの「成長」が必要かは、少し考えただけでもそれなりの努力を要することは想像できるだろう。
という前置きをした上で、適当な数字を当てはめて考えてみる。上記の式を変形すると:
エンジニアリングに関する成長率 > 市場の期待成長率/歩留まり
その上で、以下のような前提があるとする:
- 歩留まり: 50%
- 期待成長率: 20%(しつこいですが、あくまでも例です)
これを上記の式にあてはめると:
エンジニアリングに関する成長率 > 20%/50% = 40%
となる。「変化に対応できるよう、エンジニアとして成長しつづけよう」というフレーズには、そのような含意が込められている。エンジニアのひとりひとりの問題として、自分の能力が前年比で140%になっていると自信を持って述べるのはなかなか難しいことだろう。「成長しつづけよう」というのは、体裁の良いキャッチーな「ビッグピクチャ」には見えないかもしれないが、それなりにチャレンジングな課題であると思う。