Kentaro Kuribayashi's blog

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北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科博士前期課程に入学しました

タイトルの通り、長い名前の大学院(以下、略称のJAISTを用いる)に社会人学生として入学しました。といっても、実際に入学したのは今年(2020年)の4月なのでしばらく時間が経っているのですが、ブログに書いてなかったのを思い出して、いまこうして書いているわけです。

JAISTは、本校は石川県の能美市にあるのですが、品川に東京サテライトがあり、わたくしはそこの所属ということになります。研究面では、篠田陽一先生に主研究の指導を仰ぐことになりました(といっても、まずは所定の単位を取得することが先決ではありますが)。

ただ、新型コロナウィルスのこともあり、授業もゼミもオンラインであるため、入学してからは一度もキャンパスに出向いておらず、誰ともお会いできていない状態です(追記: この記事を書いた翌日に、ゼミへの参加のために初めて品川の東京サテライトへ出向くことができました)。

なぜ社会人学生になったのか

わたくしのキャリアについてはホームページにあれこれ書いていますが、ひとことでいうと1999年に法学部政治学科を出た後にいろいろあってインターネットサービスのエンジニアになり、12年ぐらいこの業界でやってきました。そんなわけで、少なくとも部分的にはそれなりに勉強したとは思いますが、情報科学について専門的な訓練を受けたわけではありません。

そのままやっていくというのも可能ではあったのでしょうけれども、最近は研究所の所長などもやっていて、そのような立場として自分自身が学位を取る必要があると考えたのが、進学を決めた一番大きな要因です。研究所もメンバーが増えてこの先ますます専門化していく中で、研究所のディレクションや研究員との協働をより高いレベルで行っていくには、自分自身もその道でなにかしらの達成はしておくべきだろうということです。

わたくしの所属するペパボ研究所では「なめらかなシステム」というコンセプトを大枠に基づき、各自がそれぞれ研究活動を進めています。研究員の奮励努力により研究開発成果のレベルも年々上がっています。そんな中で、わたくしがアカデミックな達成やアウトプットがない状況では、大まかな方向性をディレクションすることはできても、もっと具体的なところで適切なレベルで協働することは難しいと感じてきました。

ざっくりそういうわけで、自分自身もチャレンジしてみることにしたわけです。

なぜJAISTで博士前期課程なのか

まず、先述の通り、わたくしは1999年に法学部政治学科を卒業した、文系学士です。その後いろいろ経験した後、大学院では勉強をしたいというよりは、自分の研究をひと通りやってみたいという気持ちがあります。なので出願資格を通して博士後期課程に行くという道もありえたわけですが、それは止して博士前期課程から行くことにしました。

そもそも、研究に関する実績が不足していること、博士後期課程で取り組むにふさわしい研究計画がまだ作り上げられてなかったこと、出願資格の日程的な問題でもし通ったとしても入学が1年遅れることになること等の理由がありました。また、博士後期課程は正直やりきれるかわからないので、まず博士前期課程を確実に終了して修士の学位を取るのが、なにかしら形に残る可能性が高いと判断したということもあります。

JAISTを選んだ理由ですが、まずは形式的な要件として、以下の条件を満たすことを前提としました。

  1. 社会人学生としての入学なので、可能な限り土日に授業を受けられること
  2. 情報科学に関する研究を、博士後期課程への進学を視野に入れた上で行いたい(修論指導できる体制と博士後期課程もあることが必要)
  3. 通学場所は、時間的な関係でできるだけ東京都心に近い方が望ましい
  4. できれば学費が相対的に安い国立・公立が望ましい

その前提で考えた時に、いろいろ調べた結果、実質的に東京においてはJAISTしか選択肢がないように思えました(私立だともうちょっと選択肢はあるのかもしれませんが)。その要件を満たす学校は他にもあるかもしれませんが、見つけられませんでした。

選んだ理由のうちの内容的な要件については、ホームページで先生方や研究テーマを眺めてみたところ、情報科学に関する様々な分野への取り組みや実績が豊富で、ここならだいじょうぶだろうと思えました。また、これが一番大きかったのですが、知人やインターネットで知っている人々にJAIST出身者が多くいたこともあります。特に@hirolovesbeerさんには研究室もご紹介いただいたり等、大変お世話になりました。

JAISTへの入学に至る経緯

ここ数年、先述の理由により、情報科学に関する学位取得へチャレンジしないとなあと思ってはいたのですが、いろいろ些事にかまけて取り組めずにいたところ、昨年(2019年)の11月頃になんとなく大学院について調べていたところ、興が乗ってきて「今度こそやろう!」という気持ちになり、その勢いで受験までいったというのが実のところです(ここ数年、秋頃になるとあれこれと大学院のことをおもむろに調べたりしていたということはありました)。

それで、JAISTの出願要項を調べて必要な書類をそろえ、簡単な研究計画のようなものを書いて、先述の@hirolovesbeerさんに相談してみました。そうしたところ、様々なアドバイスとともに研究室についてもご紹介いただき、ゼミにお邪魔する手はずまで整えていただきました。とりあえず出願だけは済ませておいて、ご紹介いただいた篠田先生にメールしたり、12月にゼミにうかがったりして、1月11日に試験を受けました。

受験は、出願時に提出した「本学入学後に取り組みたい研究課題について」という簡単な研究計画を述べた小論文について、3人の先生方の前で発表するというもので、以下のスライドを用いて行いました。

speakerdeck.com

(小論文とかあれこれの書いて提出したものを、自分としては公開してもいいのですが、出していいものかわからないのでスライドだけにとどめておきます)

このスライドで述べている内容も、だいぶぼんやりとしたものではあったので、あれこれと質問をいただいたのですが、あんまり研究内容そのものについての話にはならず、周辺的な内容が多かったように思います(「ほんとにこの研究をしたいと思っているのですか。何か他にやりたいことがあるのではないですか」とか「学部時代の得意科目として日本政治史があげられていますが、勉強したことについて短くまとめて答えてください」とか)。

(なぜそういう話になったかというと、エントリーシートのようなものに学部時代の得意科目を書く欄があったのですが、先述の通りわたくしは法学部政治学科卒なので、いま得意なことでいえば情報工学的な内容を書けますが、科目として受けたわけではないので学部時代のことを書くしかなかったわけです)

そんなわけで面接の手応えとしてはだいぶよくない感じで、だめだっただろうなあと思っていたのですが、2週間ほど後に合格通知をいただき、入学できることになったのでした。きちんと研究をして、「あのときのやつはちゃんとやってんだな」と思ってもらえるような成果を上げてご覧に入れたいと思っています。

研究テーマについて

上述のスライドの通り、入学を検討していた時期には、OSSによる生産性向上とセキュリティ担保の両立というテーマで研究をしようと思っていたのですが、入学後にあれこれ考えた後、ちょっと違うこともするかもしれないなあと思っています(もちろん、これはこれで強い関心があるので進めたいとは思っています)。

先述の通り、わたくしの所属するペパボ研究所では「なめらかなシステム」というコンセプトで研究を進めているわけですが、自分自身の大学院での研究も、もっと直接的にそのコンセプトに沿ったものにしたいなあと思い始めました。そこで、コンセプトを実現するに際しての研究所の具体的な主要テーマのひとつであるセキュリティ(具体的には昨年@monochromegane研究員や前述の@hirolovesbeerさんと共著した「なめらかなセキュリティ」に関すること)や、情報推薦あたりにも取り組みたいなあと考えているところです。

Webアプリケーションを取りまく、利用者、開発運用者、情報システムの間で行われるコミュニケーションをなめらかにするべく、自社のサービスで蓄積された行動ログによって分析・学習したモデルを用いて、サービスで課題となっているセキュリティ対策や情報推薦等に適用するみたいな内容にしようかなあとも考えたりしているところです(そもそもいろんな基礎知識が足りてないので、いま必死に勉強している状況です)。

JAISTへの入学を考えている人々へ

わたくしはつい数ヶ月前に入学したばかりなので、もしかしたらこれから挫折するかも知れないですし、そもそもまだ学校のこともよくわかっていないために、おすすめしたり助言したりするようなことはほとんどありません。しいていうなら、入試の面接は(少なくともわたくしの時は)ガッツリつっこまれたので、その心づもりで準備しておくほうがいいかもしれません。あとはまあ、JAISTは入るのは相対的に簡単なようですが、授業は普通に大変だし、(まだ取ってないのでわかりませんが)学位を取るのも大変なんだろうなあと思います。

それはともかくとして、冒頭に書いたとおり新型コロナウィルスの関係で、入学してからまだ一度も東京サテライトに出向いてないという状況で、授業もずっとオンラインです。そうなるといろいろとわからないことやイレギュラーなことがあったりするのですが、とはいえ周りに直接聞ける人もいません。しかし、有志によるSlackワークスペースが運営されており、そこでずいぶんといろんな人々に助けていただきました。オフラインの交流があっても、その有用性は減じないでしょう。これからはいる人々にとにかくいいたいのは、Slackワークスペースに必ず入りましょう!ということです。

おわりに

数ヶ月前に入学したばかりで、まだ研究テーマもはっきりとした輪郭ができたわけでもないので、いまはまだ前途多難な状況です。4学期制の1学期目が終わりそうな段階で、まだ1単位も確定していないので、勉学という意味でもどうなるかわかりません。そのため、この先どうなるかは全然わかりませんが、ともあれなんとか食らいついてまずは修士の学位取得を目指します。その後、心変わりしなければ博士後期課程にも進みたいと思っています。

43歳にもなって、いまはまだ何も達成していないわたくしです。そろそろ少しばかりでも何かしらを成したということを、ひとつぐらいはやってみたいと思って奮励努力するしかないという気持ちでいまはおります。