マネジメント語りについて
以下のnaoya氏のツイートを見て思ったところを書いてみる。書かれている文字通りのことには完全に同意で、自分自身の行いも反省する余地があろうかと思われた。一方で、多分この発言を読んだひとが誤解するだろうなということもあるので、そのことについて。
マネジメントって業績伸ばすためにやるんですよね? 業績伸びてないのに俺たちはマネジメントうまくやってますって語るの意味あるんですかね
— Naoya Ito (@naoya_ito) December 22, 2016
結論
結論から先に書くと、マネジメントについて語ることは、業績云々に関わらずおおいにやるべきだと思う。それは、たとえばソフトウェアエンジニアリングについての文書などと同様に、世の中にとって大きく役立ち得る。
ただし、それは一般化・抽象化された(つまり、組織が違っても役立ち得る)マネジメントの理論やテクニックに限る。自分たちがそれをうまくやっているかどうかは不純な情報であり、不要である。
前提の整理
このツイートでいわれていることをもう少し補足して整理すると:
- マネジメントというのは業績向上を目的としてなされることである
- ということは、業績が伸びていないのであれば、マネジメントがうまくなされているはずはない
- それにも関わらず、業績が伸びていない状況下において「俺たちはマネジメントうまくやってます」という語りが行われるのはおかしい
ということだろう。このこと自体は、最初に書いた通り、完全に同意する。
何が問題か
問題は、
- 「俺達はマネジメントうまくやっています」と語ること
- マネジメントそのものについて語ること
が、ともすれば区別されずにツイートを見るものに受け取られることもありそうだということである。もちろん、naoya氏はそんなことは百も承知であるのは明らかなので、ここで問題にしているのはあくまでも受け取る側の話。
問題の展開
たとえば、ソフトウェアエンジニアリングについて考えてみる。
ソフトウェアエンジニアリングについても、マネジメントと同様に:
- ソフトウェアエンジニアリングというのは業績向上を目的としてなされることである
- ということは、業績が伸びていないのであれば、ソフトウェアエンジニアリングがうまくなされているはずはない
- それにも関わらず、業績が伸びていない状況下において「俺たちはソフトウェアエンジニアリングうまくやってます」という語りが行われるのはおかしい
といえるだろう。
ちなみに、「エンジニアリングがよくても他の原因(たとえばビジネス)によって業績が伸びないこともあるだろうから、マネジメントと一緒にはできないのでは?」という疑問を抱くとしたら、そのひとの「ソフトウェアエンジニアリング」についての認識は狭すぎると思う。
違和感
naoya氏のツイートに同意する私は、上記の「ソフトウェアエンジニアリング」についての展開にも同意する。論理的にそうでなければおかしいだろう。しかし、何か違和感を感じるひとも多いのではないか?
なぜ違和感を感じるのだろうか。とっかかりはnaoya氏のツイート「俺たちはマネジメントうまくやってます」の部分にある。ここでは「うまくやっている」という語りへの批判がなされている。
ブログやQiitaなどで、ソフトウェアエンジニアが技術について語ることは多いし、総体としてのそれらは、明らかに世の中の役に立っているだろう。それらの技術記事について、「業績伸びてないのに俺たちはソフトウェアエンジニアリングうまくやってますって語るの意味あるんですかね」とは、あまりいわれることではない。
何が違うのか。
語る内容の違い
マネジメントという営みが扱う対象は、およそ組織に関わること全てがあり得、その範囲は広く、内容は複雑である。そのため、マネジメントについて語ることは、よくよく注意しないと自分の経験のみに基づくものになりがちだ。つまり、マネジメントについて語ることは、いきおい以下の2つになりがちである。
- 自分たちのマネジメントはうまくいっていない
- 自分たちのマネジメントはうまくいっている
前者についてはともかく、後者の語りが業績向上しているわけではないことが明らかな状況で行われると、冒頭のnaoya氏ツイートのような批判につながる。これは当たり前のことだろうと思う。
なぜそうなるのか。不純なものが多すぎるせいである。言葉をかえると、一般化・抽象化されていないからそうなるのである。
先に述べたようなソフトウェアエンジニアリングについての語りに対して、マネジメント語りに対するのと同様の批判があまり見られないのは、ソフトウェアエンジニアリングについての語りが、十分に一般化・抽象化されていることが多いからだ。
何をするべきか
ソフトウェアエンジニアリングがそうであるように、マネジメントにも長年の、経験だけでなく、学術的な蓄積も大量に存在する。何も、自分たちの組織・文脈・経験に基づくことばかりがマネジメントではないのである。
一方で、実際にマネジメントに従事している人々は、そのような蓄積をストレートに適用する僥倖にはめったに恵まれない。組織や文脈が違えば、解法も当然異なるのだから。しかし、そんなことはどんな分野においても当たり前のことで、プログラミングにおいてだって、文脈が異なればやるべきことは異なるのは当然だ。唯一正しいテクニックがあるわけではあり得ない。
そうであってみれば、考えるべきなのは、
- まずは、マネジメントという営みの目的とするところ(=業績の向上)と、マネジメントそのものについての知見とをきっちり区別すること
- 唯一正しいテクニックがあるわけではない状況において、ではいかにして多種多様のテクニックをみにつけ、適用するのかを考えること
- そのためには、先達の経験、書籍からの知見の獲得などを含め、知識とスキルを向上させること。自らの経験と、得た知見を一般化・抽象化して理論・テクニックにすること
ということになろう。