Kentaro Kuribayashi's blog

Software Engineering, Management, Books, and Daily Journal.

情報デザインとアフォーダンス

情報デザイン入門』(木村浩・著、ちくま新書 370)という本を読みました。この本では「情報デザイン」を「何かを他者に伝えるための技術」というふうに広く捉え、言語の始まりから Web デザインまで総花的に語り起こされていて、そのためやや食い足りない面もありましたが(新書なのでしかたのないことだけど)、視野を広げるという意味では得るところが大きかったのではないかと思います。

その本の中で「アフォーダンス」なる言葉が出てきて、なんとなく聞いたことのある言葉ではあったものの意味を知ることがなかったのですが、興味を惹かれました。

アフォーダンス(affordance)という言葉は、afford(?ができる、?を与える)という単語から米国のジェームス・ギブソンGIBSON, James J. 1904-1979)が 1960 年代につくった造語である。ひと言で言えば「環境が動物に提供する情報や価値」という漠然としたものである。

[『情報デザイン入門』 p.137 より]

…なんのことだかさっぱりわかりません。

デザインの分野では、D.A. ノーマンがその著書『誰のためのデザイン』でアフォーダンスについての重要さを紹介している。椅子は見るだけで腰をかける家具であることがわかる。金づちは見るだけでどのように使うかがわかる。電化製品をはじめコンピュータも見ただけで使用できるようにすべきだといっている。

[『情報デザイン入門』 p.138 より]

依然としてなんだかよくわかりませんが、とにかくアフォーダンスについてよく考えてデザインをすることが重要なのでしょう。その具体例としてあげられている話が面白い。

展示施設では限られたスペース内に多くの展示物を配置している。それらの展示物を見る順番が構成されていて、展示場内の来館者が移動する順路を設定している場合が多い。一歩では、来館者に興味ある物を自由に見学することを方針として順路を支持しない自由散策型展示もある。

(中略)順路を設けた場合は、来館者が予定の順路通りに移動しないことが起こる。一方自由散策型では、来館者が順路を求めることがある。

(中略)順路通りに移動しないのは、次のコーナーへのアフォーダンスを発見できないことが考えられる。次のコーナーの入り口が薄暗く様子がわかりにくい場合や展示物が見えなくて寂しく感じる場合には、進んでいく行動は起こせないのである。そういった場合、サインを表示することで順路を示そうとするのであるが、サイン表示だけの問題ではないので改善は難しい。最終的にはロープ状の柵を設置し強制的な誘導を行うようになり、展示空間のバランスを損ねてしまうことになる。次のコーナーの入り口を照明で明るくするか、次のコーナーの展示が視覚にはいるようにすれば、アフォーダンスとなり自然に移動できるはずである。

[『情報デザイン入門』 p.138-139 より]

この話を読んで、例えば飲食店が回転率を高くするために冷房を強めにしたり固めの座り心地のよくない椅子をわざと使ったりするというような手法を想起しました。しかしこの本の文脈から察するにアフォーダンスというのは「?ができる」という語源から見られる通りもっとポジティヴな概念であるようなのですが、「?ができる」ということはつまり「?ができない」ということも含むわけで、要するになにをいいたいかというと、デザインというのはある一定の空間を用いてそこを訪れるひとをコントロールするということで、これはなかなかすごいことだし面白いことだなぁと思った。