Kentaro Kuribayashi's blog

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開高健・著「パニック」「巨人と玩具」「裸の王様」

まず「開高健 電子全集」という企画の素晴しさを、どれほど言葉を尽くしても足りないほどの賛辞をもって称えたい。まさに、文学全集こそ電子書籍の面目躍如であり、しかも単に編年的に集めるのみならず、テーマごとに新たに編集しているその労力、それを成し遂げつつある編集者の尽力に、ただただ感嘆を覚えるばかりである。今後、数ある日本文学作家たちの全集が、このような形で世に再度問われることを強く願う。

この全集のことは最近たまたまネットで見て知ったのであったが、さしあたって『開高 健 電子全集2 純文学初期傑作集/芥川賞 1958?1960』を購入して読み始めたところだ。頭から順に読んでいき、標題の3作を読んだ。開高健の文章は、エッセイを少し読んだぐらいで、父親が彼の文章が好きで家にたくさん本があったにも関わらず、釣り好きのおっちゃんぐらいに思って、僕はあまり釣りが好きではないのでスルーしていたのだが、大人になって食道楽を始めるに至って、彼の食通としての面には興味を持ち始めたのであった。

「パニック」は、地方の県庁に務める主人公が、役所のごたごたの中で計略を弄しつつ奮闘努力するも、のらりくらりと、ある意味ふところの深いといえるような奸計に結局はなす術もなく、そうしてうちひしがれているところに巨大なクライマックスによって、カタルシスなんだかなにやらわからない結末でもって幕が降ろされるという短編。県庁の山林課のいち役人が鼠の大量発生騒動の対応に追われるという題材の面白さや、上司たち小役人の嫌ったらしさがよく描かれていて、面白かった。

「巨人と玩具」は、著者のサントリーでの宣伝部員としての経歴が色濃く反映されたのだろうなあというもの。お菓子メーカーの宣伝部員のすったもんだの話。キャラメルを売るためにキャンペーンをやるのだが、主人公たちが子供が喜ぶものをとあれこれ知恵をしぼるのに対して、ライバルメーカーが母親向けに、子供が大学を出るまでの奨学金を懸賞にしたことに心底敗北を認めるあたり、現代のマーケティングにも活かせそうな知恵をふるまいつつ、ライバルメーカーは食中毒騒ぎであえなく撤退、しかしそれで喜んでばかりはいられない消費スタイルの変化による売り上げ不振で、登場人物が不穏な感じになっていくあたりの描写がよい。

芥川賞受賞作の「裸の王様」は、賞にふさわしいようなきれいにまとまった短編で、裕福な、しかし家庭をまったく帰りみない父親と、その後妻に育てられ、感情の発達が著しく疎外されている子供が、主人公の絵画教室講師による独特の指導によって、子供らしい感情を得ていくという話。まあ、とてもきっちりしており、よい作品なんだろうけど、面白いかどうかといったら、上記2作に比べるとつまらない。