Kentaro Kuribayashi's blog

Software Engineering, Management, Books, and Daily Journal.

ソフトウェアエンジニアとして成長するために自分を見据えること

先日、鹿児島で行われたq-tech Meeting X #1というイベントのパネルディスカッションに参加させていただきました。テーマは、アウトプットを通じていかにエンジニアとして成長していくかということについて。その中で様々な論点とやり取りがあったのですが、このエントリでは、時間の関係もあって話せなかった内容について、簡単に紹介したいと思います。

上記のツイートは、当日のパネルディスカッションの様子。左から、わたくし、株式会社W・I・Zの松岡さん、SYNAPSEの中野さん、リモート参加のさくらインターネットの松本さん(が映るMacをかかえるペパボのpyamaさん)。

そもそもなぜ鹿児島で話しているのかというと、「GMOペパボが鹿児島にエンジニア部門の地方拠点「GMOペパボ 鹿児島オフィス」を開設 〜テクノロジーをキーワードに人や企業をつなぐハブとなり地域と共に発展する企業を目指す〜」というプレスリリースを出した通り、新たな開発拠点として鹿児島オフィスを開設したタイミングで来鹿するタイミングが合ったからだったのでした。

競争心という共通項

さて、そのパネルディスカッションでわたくしが話したかったこととは何か?その前に、前提を簡単に書いておきます。パネルディスカッションの前には、いくつかのトークセッションがあり、エンジニアのアウトプットという文脈では、松本さんによる「企業に所属するエンジニアとしての社内と社外の実績の重ね方」、および、pyamaさんによる「学び続ける努力」という発表がありました。それぞれに素晴らしい発表で、大いに共感するとともに、昨今の自分の至らなさを改めて自覚し、反省したのでした。

その両者に共通する部分をあえて見出すとすれば、松本さんについては同日に行われた別の場所での発表内容、pyamaさんについては前述のスライドp.29にみられる「競争心」というワードを用いて自分のモチベーションを表現している箇所。もちろん、競争心のみがモチベーションというわけでないのはスライドからも明白なのですが、ここではあえてそういうフレームで論じてみましょう。

快楽という別軸の志向

パネルディスカッションでわたくしは、両者の共通点をそのようにいささか単純化のそしりは免れないとしても、話の進行のため簡潔にとらえた上で、少し違う話をしました。すなわち、わたくし自身にもそれなりに強い競争心はあるでしょうし、そもそもおふたりを間近で見ていて多大な敬意を抱いているという前提があった上で、当該イベントの観客のみなさんや、あるいはスライドやブログの読者にはいろんなタイプの人々がいるでしょうから、もし自分には彼らほどの競争心がなかったとしても、別のやり方もあるのではないか?という内容です。どういうことか?

競争心というのは、目標とする人物と自分とを比較して、彼・彼女を上回りたいということであったり、あるいは克己ということでいえば、過去の自分をいささかでも超えたいという、自己成長への強い気持ちということでありましょう。すなわち、いまここの自分ではない誰かと比較の上で、自らの立ち位置を捉えているということだと思います。その一方で、自分自身の好み、もう少し別の言葉を使うと快楽を感じるポイントをつきつめていくという方向性もあるでしょう。自分が競争心が薄いタイプだったとしても、快楽をつきつめるというモチベーションを強化していく方向もあるだろうと思います。アウトプットを通じて成長していくことについても、自分の快楽を感じる方向を極めて行くという考えもあろうかと思うわけです。

もちろん、競争心を満たすことが快楽なのであるというメタな話もできるのですが、ここでは、モチベーションの源がどこに発するのかの理念型について話をしているので、メタな議論はいったんおいておきましょう。また、どちらかともいえない・場合によるということもあり得ますが、もとより二分法の乱暴さと、だからこその簡潔さ(=話のわかりやすさ)というのもありますので、そこは「強いていえばどちらか?」ぐらいのことだとお考えください。

社会とどう関わるか?

さて、ここまで個人のモチベーションとして競争的か、快楽的かという話をしてきました。そもそも、この話のテーマである「アウトプットを通じていかにエンジニアとして成長していくか」という話でいうと、松本さんのトークでも語られているように、所属する組織内や技術者コミュニティとの関わり方、ひとことでいうと「社会とどう関わるのか?」ということについても、戦略的に考えていきたいところです。

その際に使える考え方として、企業の成長戦略における2つの軸を参照してみたいと思います。すなわち、どこにポジションを置くかという軸と、何を強みとするかという軸のふたつです。前者は、いわゆるポジショニングです。ひとくちにエンジニアとしてのアウトプットといっても、やるべきことは無数にあります。その中で、どこで、何についてアウトプットするのがいちばん効果があるか、そういう考え方から入るということです。ふたつめの軸は、何を強みとするか、すなわち、自分が何を得意で何があればひとより上回れるのかをつきつめていくということです。

後者の、何を強みにするかという話はイメージしやすいだろうので、特にこれ以上の説明は不要だと思います。一方、前者のポジショニングについては、この文脈ではややわかりにくかろうので簡単に述べておくと、ごく単純には、ひとがやりたがらないことや、得意なひとがいないようなことをやるというやり方です。その話については、以前、組織内で比較優位をなことを見極めようという話をしたことがあるので、そちらをご参照ください。

そのふたつは、もちろん排他的な関係にある性質のことではないので、両方をともに実行することは可能でしょう。ここでもまた、前提としたいのは、「強いていえばどちらか?」ぐらいのことです。自分の、ひととの関わり方の癖みたいな話だと思っていただけるとよいでしょう。

エンジニアの成長イメージの分類

以上の話を2×2のマトリクスに整理した上で、エンジニアの分類を行います。さらに、その4種類のエンジニアのタイプそれぞれが、どのように成長イメージを描いていけばいいのかについて、簡単に述べます。以下の表は、横軸がモチベーション、社会との関わり方の軸です。繰り返しになりますが、ピタッとあてはまるかどうかより、「強いていえばどちらか?」ぐらいで自分がどこに近いかを考えてみるとよいでしょう。

エンジニアの分類と成長イメージ
競争的 快楽的
ポジショニング 勝てそうな領域を見つけ、目標を超える努力をする。 自分にとっても世の中にとっても、新しい領域を追い求める。
強みの開発 ある領域について突き詰め、目標を超える努力をする。 自分の楽しいと思う領域をひたすら突き詰める。

競争的・ポジショニング: このタイプのひとは、世の中において認められるなにかしらを為すことが成長であるというタイプでしょう。すなわち、何をやるかというよりは、どう認められるかということなのですから、自分が勝てる領域をみつけ、目標を定め、それを超える努力を積み重ねるというのが最も効率的な成長戦略であると言えます。一方で、その領域を大きくとらないと、お山の大将に過ぎないことにもなりかねないので、注意が必要でしょう。

競争的・強みの開発: このタイプのひとも競争的ではあるものの、どんな領域であってもひとより秀でてさえあればいいというわけでなく、自分が好きな領域において勝ちたいというタイプです。自分がそういうタイプだと自覚しているひとは、そもそもその領域において競争すること自体が楽しいと思えるような、そんな何かを見つける必要があるでしょう。

快楽的・ポジショニング: このタイプのひとは、モチベーションとしては自分にとって楽しいかどうか次第ではあるものの、単に自分が楽しいだけでなく、世の中においてイケてるかどうか自体も楽しさの中に含まれるタイプです。すなわち、次々に新しいことに取り組むことの、成長曲線の急激な角度そのものに中毒しているようなひとです。一方で、単にあれこれ手を出すだけでものにならないことにもなりがちなので、注意が必要でしょう。

快楽的・強みの開発: このタイプのひとは、人との関係においてどうであろうと、自分が楽しいと思えることをひたすら追求したいというタイプです。「好きこそものの上手なれ」という言葉が最もよく当てはまります。イメージしやすいタイプではあるものの、一方で、その「好き」の度合いが自足的な基準にとどまり、努力を怠ると、自堕落と大差ないことにもなりかねません。

個人的な話

そんなことを書いている自分自身はどうなのかというと、「快楽的・ポジショニング」に最も近いという気がしています。競争心がないわけではない、というよりも、それなりに強いとは思うものの、それなりに強い競争心を遥かに上回るほど、楽しさ・新しさ・知的好奇心を満たすことの欲求のほうがずっと強い、そんな感じです。一方で、自分の強みを見定め、育てることについては、相対的に興味が薄いと思います。それよりも、ひとがやっていないことや、得意なひとがあまりいないことにチャレンジする方が効率的であるという、ある意味では打算的な面もありますし、そういうのが上手な方でもあると自認しています。

一方で、上記した通り、「単にあれこれ手を出すだけでものにならないことにもなりがち」であることについては自覚しているところでもあります。また、快楽のレベルを自分の中で高めていかないと、単なる自己満足にもなりかねなと思います。わたくしは最近ワインに凝り始めているのですが、たとえていえば、単に美味しいといってがぶがぶ飲むだけでなく、繊細な香りを嗅ぎ分け、味わいつくせるように自分の感覚を高めていくことが必要だと思っています。快楽の解像度をひたすら上げていくということです。

おわりに

ここで重要なのは、そもそも自分がいかなるタイプのエンジニアなのかを知り、適切な戦略を選択することが、何をどうやるかよりもっと重要なのではないか?ということです。当然のことですが、どのタイプが優れているとか劣っているとかいう話ではありません。世の中にはすごいひとはいくらでもいます。それでもなお、自分を見失わずに・見捨てずに着実に成長していくには、まず自分が何者なのかということを把握することが必要だと思い、そのことをお伝えしたかったのでした。