Kentaro Kuribayashi's blog

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『身体と親密圏の変容』(岩波講座 現代 第7巻)

千葉雅也さんの文章を読むために買ったのだが、せっかくなのでその他のも読んでみた。千葉さんの文章は、唐突に社会的な話と結び付けられているように思えて、そこを納得さえすれば面白いけど、それでもなおそういう話と「人文学」とになんの関係があるのかはよくわからないのであった。

赤川学さんの文章は、要するに期待水準を変えないと少子化は止まらないよねという話だと読めたが、では、どうやって変えるのかについては難しいよなあと思う。風間孝さんの文章は、なるほどそういう「構造的な不正義」というのはありそうだとは思うけれども、それがどのような「構造」なのはわからないし、どうしたら「不正義」を正せるのかもわからない。なんかそういう議論が多いな、と思う。

下條信輔さんの文章は、20年ぐらい前に『サブリミナル・マインド』を読んで以来だが、面白かった。神経科学による還元が自由意思を「蒸発」させるかに見えたとしても、(1)自由を感じるのは後付けだよ、(2)自由な選択が物理的現象に還元されても、その内容は別だよ、(3)自由が幻想であったとしてもそれは生得的に変え難いものだよという理由で、「蒸発」したりはしないという。

となると、社会において自由がどのような機能を持っているのか、どう運用したら便利なのかという話をすればいいじゃんね、ってことになって、自由意思があるかどうかは別にどうでもいいんじゃない?という意味においては、「蒸発」するんじゃないかなあと思う。

そんなこんなで、難しくてちゃんと読めてない文章も多いけど、論文集みたいなのを読むと自動的にあれこれの分野について考えることになるので、たまにはいいなと思った(講座ものを読むのなんて学生の頃以来だ)。

身体と親密圏の変容 (岩波講座 現代 第7巻)

身体と親密圏の変容 (岩波講座 現代 第7巻)

  • 大澤真幸:総説 変容の最も鋭敏な部分
  • 1 「身体」としての現代
    • 1 菅原和孝:<語る身体>の生成
    • 2 下條信輔:潜在脳、自由意思、社会
    • 3 熊谷晋一郎:関係としての身体――障害を生きる経験から
    • 4 千葉雅也:思弁的実在論と無解釈的なもの
    • 5 門林岳史:ポストメディア時代の身体と情動――フェリックス・ガタリから情動論的転回へ
  • 2 「家族」の終焉?
    • 6 千田有紀:揺らぐ日本の近代家族
    • 7 赤川学:家族の多様性と社会の多様性――少子化をめぐって
    • 8 高谷幸:近代家族の臨海としての日本型国際結婚
  • 3 「性」をめぐって
    • 9 樫村愛子:現代社会における性的差異と性関係――ラカン派精神分析の観点から
    • 10 風間孝:性的マイノリティをとりまく困難と可能性――同性愛者への寛容と構造的不正義